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大阪高等裁判所 平成3年(ネ)2106号 判決

控訴人(被告)

高林豊広

被控訴人(原告)

下之園統

主文

一  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

主文同旨

二  控訴の趣旨に対する答弁

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  事案の概要

当事者双方の主張にかかる事案の概要は、次の一及び二のとおり付加訂正するほか、原判決「事実及び理由」欄第二に摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決二枚目表九行目の「損害賠償請求」を「損害賠償」に、五枚目表二行目の「ところを運ぶ」を「ところに運ぶ」に各改める。

二1  控訴人の当審における追加主張

平成三年九月四日の原審口頭弁論期日において、被控訴人と原審における分離前の相被告小林との間に、「小林は被控訴人に対し、本件事故の損害賠償金として既払金額を除き一二〇万円の支払義務あることを認め、本日四五万円を支払い、残金七五万円については、平成三年一〇月から平成四年二月まで毎月末日限り一五万円宛分割して支払う。被控訴人はその余の請求を放棄する。」旨の和解が成立した。被控訴人は、右和解により平成三年一一月一〇日現在合計六〇万円を受領している。

被控訴人が小林とこのような満足的和解をした以上、控訴人に対してもはや損害賠償を請求することはできないというべきである。

2  被控訴人の認否

控訴人主張のとおりの和解が成立したこと、被控訴人が右和解により平成三年一二月二四日現在合計七五万円の支払を受けていることは認める。

第三  争点に対する判断

一  控訴人は、本件加害車両の所有者であることは認めるものの、同車を小林に引渡した時点で運行支配または運行利益を喪失したと主張するので、この点について判断する。

1  成立に争いのない乙第一号証の二、第三号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第二号証の一、原審における控訴人本人尋問の結果、原審における分離前の相被告小林正一本人尋問の結果、当審証人小林正一の証言(小林正一については後記措信しない部分を除く。)によると、次の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(一) 小林は、従前から小林自動車工業の商号で車の修理、車検、販売の仲介等をしていたが、知人の西岡から控訴人を紹介されて控訴人の車の修理や車検を行うようになつた。

(二) 小林は、昭和六二年五月頃控訴人から自動車購入の申込を受けたので、大阪トヨタ自動車株式会社八尾営業所(以下「大阪トヨタ」という)に赴いて値段等の交渉をし、大阪トヨタとの間で自己の名で加害車両を代金約二一〇万円で買い受ける旨の売買契約を締結した。小林は、大阪トヨタから加害車両の引渡を受けた後控訴人との間で加害車両を代金約三〇〇万円で売却する旨の売買契約を締結し、直ちに控訴人方に納入した。小林は、控訴人から代金を受領した後、同営業所に代金を支払つた。

(三) 加害車両は、同月一八日一旦登録番号泉―五八・ろ・七九八で登録されたが、控訴人が右番号を嫌つたために、同月二〇日泉―五八・ろ・八八八に変更された。

(四) その後、控訴人は、加害車両のフレームとバンパーに損傷があることを発見し、小林に対して苦情を申し出た。小林は、控訴人に対しては「メーカーに修理させる」と答える一方、大阪トヨタに連絡したところ、同営業所から、「忙しいので加害車両を持つて来てほしい」と頼まれたので、本件事故当日の朝控訴人方へ加害車両を引取に行き、大阪トヨタに運転して行く途中本件事故を惹起した。

右認定事実によると、加害車両は大阪トヨタ自動車から小林に売却され、さらに小林から控訴人に売却されたものであることが認められる。

前記小林の本人尋問の結果及び証言中には、小林は大阪トヨタと控訴人間の売買の仲介者であつて、加害車両の買主ではない旨の供述部分があるが、前掲証拠に照らして措信できない。

2  右事実関係によれば、小林は、自己が転売した加害車両につき控訴人からフレームとバンパーに損傷があるとの苦情を受けたため、控訴人に対する売主としての義務である修補を引き受け、自己に対する売主である大阪トヨタの依頼を受け、本件事故当日の朝控訴人から加害車両を引き取り、大阪トヨタに運転して行く途中で本件事故を惹起したものであるから、小林は、控訴人に加害車両を販売した業者として営業上右修補に必要な範囲で加害車両の運行を委ねられ、自己の支配下においていたものであり、その運行利益も小林に帰属していたというべきである。したがつて、小林は、本件事故につき自賠法三条にいう自己のために自動車を運行の用に供する者としての損害賠償責任を免れないものであつて、反面、控訴人は、小林に加害車両を引き渡した時点で一時的に運行支配を喪失したというべきであり(控訴人が小林と重畳的に運行支配を有していたとみるべき場合には当たらない。)、したがつて、本件事故につき損害賠償責任を負わないものと言うべきである。

二  そうすると、その余の点につき判断するまでもなく、被控訴人の控訴人に対する本訴請求は理由がないから、失当である。

第四  よつて、被控訴人の請求は棄却すべきところ、これを一部認容した原判決は相当でないから、原判決中控訴人敗訴部分を取り消して被控訴人の請求を棄却することとし、民訴法三八六条、九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 潮久郎 水野武 村岡泰行)

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